─カムイワッカ湯の滝─

 日本最後の秘境とも言われる北海道・知床半島。この知床半島は突端まで道路が続いておらず、車では半ばまでしか行くことが出来ない。そのオホーツク海側の行き止まり近くに、究極の秘湯ともいうべき「カムイワッカ湯の滝」がある。知床の屈指の名所知床五湖を過ぎて、未舗装の知床林道を八km程走った行き止まり近くに車を止め、カムイワッカの渓流を徒歩で遡る。
 湯の滝までは特に迂回路があるわけでなく、渓流をそのままジャブジャブと登っていく。急な斜面や岩場もあり、足を滑らせやすい。シーズンには登り口でわらじを貸してくれる業者がいるので、何も装備がなければそれを借りて登る。本当に急斜面で、怪我をする人もいるので、注意が必要。なお、滝の両岸は滝以上に急角度な岩の斜面で、高熱の湯や蒸気が噴出しており、危険で足を踏み入れられたものではない。
 急流を遡ること約二十分、ようやくその名の通りの湯の滝にたどり着く。滝の斜面から約八十度の湯が湧き出ていて、川の水と混じり合って適温になっているもので、滝壺がそのまま湯船になっているという豪快さ。滝は何段にも果てしなく続いており、その滝壺が全て湯船になっている。上へ登れば登るほど湯も熱くなっていくので、自分の好みの温度の湯に浸かることができる。湯は知床半島の中央にある活火山・硫黄山から流れ出るもので、十円玉をつけるとピカピカになるほど強い酸性。口の中に入れば硫酸の強烈な味がするし、目に入ればとても痛い。また、何の設備もない湯の滝は当然ながら混浴。男女とも水着持参のこと。
 というのも、こうしたまさに秘湯中の秘湯で、たどり着くのも容易ではないのだが、その豪快さとメジャーな観光地・知床という立地のためか、訪れる人が結構多いからだ。しかも年々有名になって訪れる人も増えているようだ。そのため、環境保全の見地から現在は夏季交通規制が敷かれており、ウトロなどからシャトルバスに乗って行かねばならない。筆者が訪れた平成九年には特にそのようなことはなかった。知床の世界自然遺産登録がなればより一層の客足が増えるだろう。そういったことで、羆(ひぐま)の生息地で有名な知床ながら、熊の出没に関しては筆者は聞いたことがない(保証はしないが)。なお、林道が閉鎖される冬季(十一月中旬~五月中旬)は入浴不能。
 ちなみに、カムイワッカとは神の水を意味するが、ここでのカムイは悪い神、即ち「邪神」である。臭気の強い硫黄分が含まれる強酸の湯なので、かつてアイヌの人々は飲むと死神を招き、顔を洗えば目が潰れるといって恐れたとか。まさに「邪神の湯」なのである。人が多いことは多いが、温泉好きならば一度は入りたい温泉だ。なお、写真のモデルは筆者。

<カムイワッカ湯の滝>
所在地:北海道斜里郡斜里町ウトロ
泉質:硫酸塩泉
泉温:80℃
湧出量:165リットル/分(自噴)
PH値:1.69

霊湯禊場入口へ戻る