神秘色の水

暗く深い井戸の底
いつかどこからか湧き出した
そこに佇むその水は
いつでも静かで澄んだ色

井戸へ金の桶を投げ
水を汲み上げた男が言った
見ろ、水は金の色

今度は銀の桶を投げ
水を汲み上げた女が言った
いや、水は銀の色

二人の意見はまとまらず
再び調べる水の色

男は水を飲むのも忘れて
金の桶を何度も投げ込み
やたらと井戸をかきまわす
おかげですっかり疲れ果て
水は濁って泥の色

女は底の深さも忘れて
銀の桶とともに飛び込み
やにわに岩で頭打つ
おかげですっかり血が流れ
水は濁って赤い色

男は慌てて井戸に飛び込み
女を助けようとしたけれど
疲れて泳げず溺れ死ぬ
井戸は二人を飲み込んで
やがてもとの澄んだ色

ある日女の老いた父親が
井戸へ男の幼い娘を
連れてやってきて言った
金の桶では金の色
銀の桶では銀の色
水の色など気まぐれだ
くだらぬことで悩むうち
いつしか井戸も枯れてしまう
その顔に満ちた悲しみの色

そんな言葉の意味など知らず
幼い娘は水を汲み飲んで
ただ、おいしいね、と言った
その瞳の水より深く澄んだ色


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