3rd.DAY-1st. 2004/12/31 イラクリオ考古学博物館

 前日強制終了で早く寝ただけに、今日は早々6時頃目が覚めた。ホテルは朝食付きなので、7:00頃1階の食堂に降りていって朝メシを食うパンとか卵が中心の、バイキング形式のよくあるブレックファーストだが、チーズの種類がやたら多いのはいかにもヨーロッパ。また、オリーブの酢漬けやオリーブオイルも取り放題かけ放題というのはさすがギリシアというべきか。しかも、ギリシアのオリーブ全収穫高の半分はクレタ産だとか。日本で言えば酢漬けは納豆、オイルは醤油といった感じで好きなだけ使えと言わんばかりだ。
 朝メシも済まし、9時頃にはホテルを出て、まずは昨日途中で追い出された考古学博物館に向かう。

イラクリオ考古学博物館の外観。世界的にも貴重な遺物を収蔵している割には、質素な感じ。内部も特に工夫がこらしてあることもなく、規模的に見ても日本の主要都市の市立博物館くらいのもの。純粋に収蔵品だけで勝負ということか。

 今日は正規料金の6ユーロを払い入館。館内は2階層になっており、順路に従っていくと、大体古い時代から順に出土品が見られるようになっている。

イラクリオ考古学博物館の目玉の一つ「フェストスの円盤」。クノッソスと同じミノア文明の都市で、クレタ島の南方にあるフェストス宮殿のより出土したもの。紀元前約1600年のもので、粘土製の円盤に象形文字が渦巻状に描かれているが、文字は未解読。この博物館の収蔵品で最も有名なものの一つで、やはり世界史の資料集などに載っている。

「フェストスの円盤」の裏側。表側と同じく象形文字がぎっしり。この円盤の文字は他のミノアの象形文字と異なるもので、今のところこの円盤以外にこの文字が書かれたものは世界で見つかっていない。ゆえに全くの未解読らしい。

「フェストスの円盤」と並ぶイラクリオ考古学博物館の目玉「牛頭のリュトン」。リュトンというのは杯の一種で、全体は凍石(印鑑などに使われる彫刻用の石材)製で、角は金箔塗り、目は水晶、鼻の周りの白い部分は真珠層(真珠貝などの内側にできる、真珠と同じ成分の層)で出来ている。紀元前16世紀、クノッソス宮殿出土。この博物館の中でも特に厳重でかつ目立つように展示されている。ミノア文明の高度さを示す逸品。

「牛頭のリュトン」側面。ミノタウロス神話に元になるような、牛への信仰がうかがい知れる。なお日本では、UHA味覚糖の玩具菓子「コレクト倶楽部 古代文明編」の一つとして製品化されてコンビニなどに置かれていたので、その筋の人には有名。

イルカの彫刻。クノッソスの壁画にもあったが、ミノア人はイルカが好きだったようだ。 こちらはタコの描かれた瓶。海洋国家だったミノアでは、海の生き物がモチーフとなることもしばしば。

ミノア時代の剣。柄は水晶やら金箔やらで出来ている。大きさから考えても儀礼用、もしくは副葬品というところだろう。 豹か虎か、ネコ科の猛獣の頭部の像……だったと思う。

これもミノアの出土品のうちで有名なものの一つ「蛇女神の像」。ミノア時代にはこうした地母神も信仰されていたのだろう。後のメドゥーサなどの原型かもしれない。こうしたかつて崇拝された旧文明の蛇の女神が、後のギリシア時代に堕ちて邪神となったのが、メドゥーサ、ゴルゴン、ラミア、エキドナといった女性形の蛇の魔なのだろう。これは蛇神にして邪神の像なのだ。

黄金の装飾品の数々。黄金を使った装飾品は数多く、豊かな文明であったことを偲ばせる。 装飾品と思われる黄金の斧。両刃の斧が重要なシンボルであったことをうかがわせる。

いわゆるクレタ線文字。戦争だか武器だかに関する記述と案内にあった気がする。ということは時代の新しい線文字Bのほうなのだろう。線文字Aは未解読だから。 巨大な両刃の斧。人間の身長を超える特大のサイズなので、明らかに儀礼用だろう。もしこんなものを実戦で使えるとしたら本物のミノタウロスしかいない。ちなみに刃の部分だけが本物の出土品。

ブロンズのフィギュア等。昨日買った「リアルな」ミノタウロス像は、これらの出土物風に作ったものだと合点がいった。 クノッソス宮殿にあった、牛の角のモニュメントの実物。

クノッソスとは別の場所で出土した「牛頭のリュトン」。 何だかよく分からないが、牛が牽く、もしくは牛がデザインされた車らしい。何とも奇妙な造形だ。

両手を挙げた人の像。西洋人観光客のおねーさん方の一団が同じポーズをして写真を撮っていた。それを見ていた一人で来ていた風のやはり西洋人の大学生くらいの女の子がなぜかこちらを見て微笑む。なんだろうと思ったら写真を撮ってくれだってさ。 ミノア時代の棺桶。

 このあたりまでで、1階はほとんど見終わった。2階へ上がる階段の手前で、ちょっとした企画展示のようなものがされていた。内容は「クレタ島のギリシア時代の出土品に見る肉体運動の表現」とか何とかだったと思う。

ギリシア時代の腕輪。黄金が使われていたと思ったが……記憶が定かでない。 こちらもギリシア時代の壺。所々金箔が貼られているようだ。

女神アテナの描かれた壺。もちろんギリシア時代。 ローマ時代の青銅製の兜、だったと思う。

 ここから2階に上がる。2階の展示品はほとんどがクノッソス宮殿の壁画の本物だ。

「雄牛跳び」。 「行列の回廊」の壁画。

「女王の間」のイルカの壁画。 「青の婦人たち」。

北の入口の見張り場にあった雄牛の壁画。 「ユリの王子の壁画」。

フレスコ画で覆われた「アギア・トリアダの石棺」。棺の4面にミノア人の葬送儀礼の様子が描かれている。しかしカラフルでパステルな棺桶だ。ミノア人の死生観は楽観的のものだったのだろうか?ちなみにガラスの下の台をよく見ると「ΑΓΙΑ ΤΡΙΑΔΑ」(アギア トリアダ)と書いてある。なおアギア・トリアダとはこの石棺が発掘された遺跡の名前。

「玉座の間」のグリフィンの壁画。損傷が激しいようだ。 別のグリフィンの壁画。グリフィンというよりペガサスだな。

青い鳥の壁画。マティスの絵画みたいだ。別にマティスに詳しい訳じゃないけど。 タコの壁画。やっぱりミノア人はタコが好きだったんだろうか。

 2階の一番奥には黄金の装飾品の中でも特に貴重なものが展示されていた。小さくて精巧なものが多いのだけど、それだけに上手く写真に写らなかった。博物館のチケットに載っている黄金の蜜蜂のペンダントもここにあった。

2階の奥にあった黄金製品の中で一番大きい黄金の指輪。。 博物館が撮った黄金の指輪の拡大写真。右端の人物が神で、あとの二人が男と女……とかいう解説が書いてあった気がする。

1階に降りてくると、最後にギリシア時代やローマ時代の遺物が展示されていた。

ギリシア時代前期の鳥の像。奥の像や次の写真の像もそうだが、古代エジプトっぽさが漂う。ギリシア文明の淵源はエジプト文明だという話だが、なるほどと思った。 やはりギリシア時代前期の女神か女性?の像。同様にエジプト的。クレタ島はギリシアの中でも最もエジプトに近いから、特に影響が強いのだろうか?

 この展示室は奥に行くに従って時代が下っていくようだ。

古代ギリシア語が刻まれた石板。現代ギリシア語アルファベットとほとんど変わらない。

 そして一番奥には、古代ギリシア最盛期の石像が沢山展示してあった。ここへ来てはじめて、いかにもギリシアらしい像を見た。これらを見て、本当にギリシアに来たんだなあ、という実感が湧いてきた。今まで見てきたのはより古いミノア文明のものばかりだったので。下のようなギリシア時代のもののほかに、ローマ皇帝の像などもあった。

一番奥にあった一番大きな像。しかし何の像かは分からなかった。ヘラあたりだろうか。 女神アフロディーテ(ヴィーナス)の像。何を持ってるんだろうか。

どこかの神殿か何かに使われていたタイル?の床。中央に海馬?に乗ったポセイドン、八方に息子のトリトンが描かれてる。
死者を蘇らせたという医神アスクレピオスの像。へびつかい座の神。    

 これでイラクリオ考古学博物館は全て見尽くした。博物館としては特に広いわけでもなく、内装や展示方法も素朴で前時代的ではあるのだが、収蔵品の密度が濃い。ミノア文明の博物館はほとんどここが世界で唯一といってもいいようなものだから、それも当然だろう。
 さて、博物館にはミュージアムショップが付き物。最近はどこの額物館も力を入れていたりするのだが……やはりクノッソス宮殿同様、全然力が入ってない。というか、ミュージアムショップの部屋などは特に独立して設けられたりしていない分、クノッソス宮殿よりも力が入っていない。売っているものもせいぜい絵葉書とガイドブックぐらい。しかしガイドブックは世界の各国語版が取り揃えてあった。もちろん日本語版もある。チャラチャラしたお土産は売らない割には、こうしたところに異様な力が入っているというのは、人類の遺産を世の人に知ってもらうという、博物館本来の意義に徹しているということだろうか。別の意味で意味この博物館の意気込みが感じられて、逆に気分がいい。もっともここまで徹することが出来るのは、収蔵品の希少性と、お土産屋と住み分けがしっかり出来ているからこそであろう。遺跡と遺物が最大の学術調査対象でかつ観光資源でもあるギリシアらしい一面かもしれない。
 ということで私も日本語版を一冊買わせてもらった。日本で出版してるのかと思いきや、ちゃんとアテネの出版社で日本語版を作っているようだ。ほかに絵ハガキを何枚か買って、外に出た。

 外に出たのがお昼ごろ。今日はいい天気だ。冬なのに暖かい。博物館の庭にハイビスカスが咲き、猫が歩いている。のどかだにゃあ。

博物館前庭の大理石の床を我が物顔で闊歩する猫ちゃんw 博物館の庭に咲くハイビスカス。

クレタ島での主目的も遂げたので、午後からはのんびりイラクリオ散策。

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