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紅葉紀行
其之九、別所温泉 ニ、安楽寺
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 古来国府が置かれて栄えてきた信州・上田。既に見てきたように、別所温泉は平安時代から名湯として知られており、「別所」という地名も平安貴族の「別荘」を意味するという。また別所温泉を含む塩田平(上田市南部の台地)は、鎌倉時代、執権北条氏の分家が入り、「信州の学海」と呼ばれるような信濃の政治・文化・宗教の一大中心地となった。国宝・重文級の文化財が今も多く残り、「信州の鎌倉」と呼ばれる。その中心であり象徴とも言うべきものが、安楽寺(あんらくじ)の国宝八角三重塔である。

北向観音入口の正反対に建つ安楽寺の参道入口の黒門。寛政四年(一七九二年)建立。

安楽寺参道。石段の上に山門が建つ。

安楽寺境内。安楽寺の創建は慈覚大師とも平維茂とも言われ、常楽寺、長楽寺(北向観音の近くに建っていたらしいが今は残っていない)とともに「別所三楽寺」と呼ばれた。その後樵谷(しょうこく)禅師が再興し、「信州の学海」の中心道場となった。鎌倉時代には建長寺や円覚寺など鎌倉五山に匹敵する格式を誇ったという。当時は臨済宗だったが、桃山時代に曹洞宗に転じ現在に至る。

本堂右にはこんな野点の席も。

本堂(右)の前。奥の入口で拝観料を払って、八角三重塔を見学する。

拝観料を払ってすぐの目の前に建つ経蔵。寛政十六年(一七八四年)、宇治の黄檗(おうばく)山萬福寺から購入した「鉄眼の一切経」を保管するために建てられた。方三間、ぬりこめ、宝形造、銅板葺の経蔵で、この種建物の代表的なもの。市の文化財。

経蔵内部に置かれる輪蔵。輪蔵とは、主に禅宗寺院で造られた八角形の回転式書架。これを回すだけで収められている経典を読んだのと同じ功徳が授かるとされている。チベット仏教の「マニ車」と同じようなものである。なお、「鉄眼の一切経」とは、明から日本に渡って黄檗宗を開いた黄檗山万福寺の開山・隠元禅師(「隠元豆」は普及させた彼の名にちなむ)が、明より持ち込んだ大蔵経(三蔵法師が天竺から仏教経典の集大成で全六九五六巻)を、隠元禅師の弟子・鉄眼禅師が版を起こして印刷したものである。起こすのに十五年かかったという版木四万七千枚は、今も萬福寺に残る。この輪蔵内にもその版から刷られた全巻が保管されている。

輪蔵に祀られる傅(ふ)大師。傅大師は輪蔵を考案した人物とされており、古来より輪蔵には必ず傅大師を祀る習慣がある。輪蔵も市の文化財である。

八角三重塔へ至る石段の途中に祀られる、樵谷惟仙(しょうこくいせん)禅師像。樵谷禅師は鎌倉中期に宋に渡り、鎌倉の建長寺開山・蘭渓道隆と共に帰朝して安楽寺を開いた。この像は禅師没後十年を経たと思われる嘉暦四年(一三二九年)、大工の兵部という人の作になる。鎌倉期の代表的な頂相(ちんそう。禅僧の肖像のこと)彫刻であり、武家文化を反映して非常に写実的。国の重要文化財。

樵谷禅師像の左に並ぶ、幼牛恵仁(ようぎゅうえにん)禅師像。樵谷禅師に従って来朝した中国僧で、安楽寺の二代目となった。樵谷禅師像と同年の墨書銘があり、作者名はないが作風が似ているため同じ作者と見られている。こちらも国の重要文化財。

安楽寺の目玉、国宝八角三重塔。一二九〇年代(鎌倉時代末期)建立。四重に見えるが初重は裳階(もこし。ひさし又は霧よけの類)である。禅宗様の質実剛健な造り。裳階をつけた形式というのも珍しいが、細部・内部も特殊な造りであり、そもそも禅宗様形式の塔自体類例が少なく、何より日本に現存する唯一の八角塔ということで、非常に貴重な文化遺産である。

八角三重塔の全体像。仏塔は仏舎利(ぶっしゃり。釈迦の遺骨)を納めるインドのストゥーパ(卒塔婆の語源)が起源であり、日本でも本来の目的はそうであったが、中世以降は特定の人物や戦死者の供養のために建てられた。この塔の建立の由来は明らかではないが、別所や安楽寺が塩田北条氏の庇護の下にあったことから、やはり北条氏の供養塔として建てられたものと見られている。

下から見上げた八角三重塔。当時の建築技術の粋を集めた緻密な造りであると共に、禅宗様の、華美を排した質素な造りであることもうかがわれる。

京都・奈良にでも来たのではないかという錯覚に陥るが、京都・奈良にも存在しない形式であることを思うと、ますますこの塔の偉大さ・貴重さが心に沁みてくる。そしてまた、往時の別所がいかに文化の先進地帯であったかということを感じさせるものでもある。紅葉伝説も、鎌倉時代における別所の重要性を念頭に置くと、また違った見方が出来るかもしれない。


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安楽寺の場所は左の地図の通り。



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